なぜ日本版だけ規制される?CEROとゲーム表現規制についての解説記事

ゲーム関連

PC版でゲームを遊ぶ機会が増えてから、久しく忘れていたCEROとかゲーム規制について思い出したついでにいろいろと調べたから解説記事にしてみた。

「18歳未満が遊んでも罰せられないのに、なぜお店はZ指定ソフトを売ってくれないの?」 「海外版はそのままなのに、日本版だけ血や裸が修正されるのはなぜ?」

ゲーム好きなら一度は感じたことがある疑問ではないでしょうか。たとえば海外のトレーラーで見た派手なゴア表現や、恋愛シーンの演出が、日本版では妙にマイルドになっていて「えっ?」と戸惑った経験がある人も多いはずです。

その裏側にあるのが、CERO(コンピュータエンターテインメントレーティング機構)という存在。この記事では、CEROとは何か、なぜ設立されたのか、どんな基準で審査されているのかを、実例を交えながらわかりやすく解説していきます。

CEROとは何か

CEROの組織概要

CERO(Computer Entertainment Rating Organization)は、日本国内の家庭用ゲームソフトに年齢区分レーティングを付与するNPO法人です。2002年に設立され、2003年に東京都からNPO法人認証を受けて本格的に活動を開始しました。

CERO設立以前は、任天堂やソニーなどプラットフォームごとに独自の審査基準を持ち、同じソフトでも機種ごとに修正要求が異なることがありました。これでは開発・販売の負担が大きく、消費者にもわかりづらいという問題がありました。そこで業界団体(CESA=コンピュータエンターテインメント協会)が中心となり、審査基準を一本化した業界横断機関としてCEROが生まれました。

設立の目的は大きく3つあります:

  1. ゲームの対象年齢を明示し、消費者が選びやすくする
  2. 青少年の健全育成に配慮し、業界の社会的信頼を高める
  3. 自主規制を通じて、行政や外部からの過剰な規制を防ぐ

つまり、CEROは「規制機関」というよりも、業界と社会の間に立ってバランスを取る仕組みとして作られたのです。

CEROの審査制度

CEROの主な役割は、ゲームの内容を審査し、年齢区分マークを付けることです。現在の区分は次の5種類です:

  • A:全年齢対象
  • B:12歳以上対象
  • C:15歳以上対象
  • D:17歳以上対象
  • Z:18歳以上のみ対象(販売時に年齢確認が必要)

さらにCEROには、単なる年齢区分だけでなく「禁止表現」が存在します。これは「性器描写」「直接的な性交描写」「極端な残虐表現」「薬物乱用の肯定」など、年齢に関係なく含んではならない表現を指します。これらを含むソフトは、Z指定でも審査不可=発売不能になるため、日本版だけ修正される理由のひとつになっています。

審査の流れは以下の通りです

  1. メーカーが審査用の映像(ゲームの全表現を網羅したダイジェスト映像)を提出
  2. 複数の審査員が独立して評価し、年齢区分を判定
  3. 判定が一致しない場合は協議して最終決定

この過程で、必要なら修正提案が出されることもあります。メーカーは修正版を提出して再審査を受けることで、希望する年齢区分を獲得することができます。

なぜCEROが作られたのか

表現の多様化と社会的批判

1990年代後半から2000年代初頭にかけて、ゲームは2Dのファミコン的表現から3D・フルポリゴンへと進化しました。暴力や流血、性的描写もよりリアルに再現できるようになり、ゲームは「子どもが遊ぶもの」から「大人も楽しむエンタメ」へとシフトしていきます。

ところが、表現力が上がったことで社会的な議論も増えました。アメリカでは『Mortal Kombat』や『DOOM』などの過激な暴力表現が問題視され、1994年には上院公聴会で審議される騒動に発展。これが北米ESRB設立のきっかけになったといわれています。

日本でも「ゲーム脳」論争や、青少年犯罪とゲームの因果関係がメディアで取り沙汰され、親や教育関係者からの批判が強まった時期でした。さらに、都道府県レベルで青少年保護育成条例の改正が進み、「有害図書類」や「有害映像ソフト」の規制対象が広がります。この流れの中で、ゲーム業界としても「このままでは外部から強制的な規制が入る」という危機感が高まりました。

業界にとってのメリット

CERO設立の狙いは、単なる規制ではなく業界自身が自分たちの表現を守るための仕組みを作ることでした。

基準の統一 設立以前は、任天堂・ソニー・セガなどプラットフォームごとに独自の倫理審査が行われており、同じタイトルでもハード別に修正箇所が異なることがありました。CEROによって、どのハードでも共通の基準で審査されるようになり、開発やローカライズ(海外作品を日本向けに調整すること)の負担が軽減されました。

社会的信頼の確保 業界が自主的に年齢区分を付け、過激な表現には注意喚起を行うことで、「ゲーム業界は無秩序ではない」というメッセージを社会に示せます。これは、行政やメディアからの過剰規制を防ぐ”防波堤”としての役割を果たしました。

流通・販売の円滑化 小売店やプラットフォームは、CEROのレーティングをそのまま販売条件の基準として採用できるため、「販売していいかどうか」を判断しやすくなりました。結果として、業界全体がリスク管理をしながら安心して作品を市場に出せる環境が整いました。

CERO審査の実態と影響

修正される表現の実例

CEROの審査により、多くの海外タイトルが日本版で修正を受けています。代表的な例を見てみましょう。

『バイオハザード』シリーズ 日本版では、ゲームオーバー時の欠損表現がまるごと規制されたり、敵ゾンビの損壊表現がカットされることがあります。海外版では四肢が飛び散る表現も、日本版では血痕のみになるケースが多いです。

『GTA』シリーズ 一般人への攻撃表現や特定ミッションの演出、性表現が削除されることがあり、「作品の雰囲気や世界観が薄まってしまった」と感じるプレイヤーも少なくありません。

『サイバーパンク2077』 比較的最近のタイトルでは、性器の表示や一部性的描写を削除、残虐表現の一部が軽減されたことでSNSを中心にゲーマー間で話題になりました。

これらの修正により、Z指定なのにグロ表現や性的表現が薄められてしまうと、「Z指定なのにここまで削る必要があるのか?」「大人向けなら自己責任で遊ばせてほしい」というゲーマーの声が上がるのも自然でしょう。

D区分とZ区分の重要な違い

https://www.cero.gr.jp/publics/index/17/

CEROの年齢区分には「D(17歳以上)」と「Z(18歳以上)」という、よく似た上位カテゴリがありますが、この2つは見た目以上に大きな違いがあります。

区分制限内容販売制限流通制限D区分推奨年齢17歳以上(目安)法的販売禁止なし通常流通可能Z区分18歳以上のみ対象年齢確認義務あり陳列・広告制限あり

Z区分の厳しい制限

  • 販売時の年齢確認が義務化
  • 店頭では別棚陳列やパッケージ裏返し
  • 一般向け番組でのCM放映制限
  • 多くの都道府県で「有害図書類」として条例規制

CERO Z区分の法的な位置づけ

多くの人が誤解しているのが「CEROは業界の自主規制だから法的拘束力がない」という点です。確かにCERO自体は民間のNPO法人ですが、CERO Z区分に指定されたゲームは、長野県を除く46都道府県の青少年保護育成条例において「有害図書類」として法的に指定されています。

これにより、以下が法的に義務付けられています:

  1. 18歳未満への販売禁止 – 条例違反として処罰対象
  2. 年齢確認の実施 – 身分証の確認等
  3. 区分陳列の徹底 – 未成年の目に触れない場所での陳列
  4. 適切な広告表示 – 年齢制限の明示

罰則の実例

https://www.pref.aichi.jp/

Z区分ゲームを青少年にネット販売した場合、30万円以下の罰金など。

「Z=無制限」ではない現実

ゲーマーの中には「Zなら何でもOKなのでは?」と思っている人も少なくありません。しかし、CEROの審査基準には禁止表現が存在し、これはZ区分であっても許されない表現です:

  • 性器の露骨な描写、直接的な性交描写
  • 過剰な残虐表現(四肢切断・内臓露出などが過度な場合)
  • 薬物乱用を賛美する描写
  • 特定の人種・民族・国籍への差別表現

これらを含むソフトはZ指定でもレーティング不可=発売できないため、メーカーは日本版を作る際に表現を修正・差し替えます。その結果、海外版と日本版で内容が異なることがしばしば話題になるのです。

他の規制機関との比較

ソフ倫との棲み分け

https://www.sofurin.org/htm/about/rating.htm

ソフ倫(ソフトウェア倫理機構)は、主にPC向けアダルトゲームや成人向けコンテンツを審査する団体です。性表現の扱いに特化しており、CEROよりも詳細な規定を持っています。

同人ゲームやアダルトゲームは基本的にCEROの審査対象外で、コンシューマ機向けに移植される場合のみCERO審査を受けることになります。そのため、同じ作品でもPC版では表現がそのまま、コンシューマ版では修正ありというケースが多発します。

海外レーティング機関との比較

地域機関名特徴
北米ESRB民間自主規制。AO(Adults Only 18+)指定は事実上販売禁止
欧州PEGIEU圏の統一レーティング。18+でも比較的表現に寛容
ドイツUSK法的拘束力を持つ。暴力表現に特に厳しい
オーストラリアACB政府機関が審査。R18+でも禁止表現があると販売拒否
日本CERO業界団体による自主規制。禁止表現は年齢問わず審査不可

海外と比べると、日本のCEROは「自主規制+流通制限」という中間的な立ち位置です。アメリカのESRBよりは厳しく、ドイツやオーストラリアの”法的拘束力あり”制度よりは緩いというバランスです。

プレイヤー視点での問題点

表現規制による没入感の低下

ゲーマー視点から見ると「結局はゲームメーカーが自主規制を強いられている機関」であることも事実です。Z指定なのにグロ表現や性的表現が薄められてしまうと、「作品の雰囲気や世界観が薄まってしまった」と感じるプレイヤーも少なくありません。

規制があることで海外版と比べて雰囲気が薄まるケースは多く、プレイヤーからは「緊張感が減った」「映画のディレクターズカット版を見せてもらえない感じ」といった声が多く聞かれます。

経済的な機会損失

CEROのレーティングが取れないと、事実上日本市場に出せません。その結果、以下のような問題が発生しています:

発売断念の事例 2022年発売予定だった『The Callisto Protocol』は、CERO審査を通過できず、修正も困難と判断されたため、日本での発売を断念。Steam でも地域制限(通称「おま国」)が適用され、日本国内ではプレイ不可能な状態となりました。

修正コストの増大 メーカーは日本版を作るために、追加の開発費と時間をかけて修正版を制作する必要があり、これがゲームの価格や発売時期に影響することもあります。

CEROのメリットとデメリット

メリット

  1. 消費者への分かりやすい指標 – パッケージのA〜Zマークで年齢適性が一目で判断可能
  2. 過剰規制の防波堤 – 自主規制により法的規制を回避
  3. 流通業者のリスク軽減 – 統一基準により販売判断が容易

デメリット

  1. 審査の主観性 – 「極めて残虐」などの判断基準が曖昧
  2. 表現の萎縮 – 事前の自主規制により本来の表現が削がれる
  3. 実質的な市場独占 – CERO以外の選択肢がほぼない状況

技術的な解決策と今後の展望

現在の回避策

一部のメーカーは、規制を回避するために以下のような手法を採用しています

  • Steam版での無修正配信 – PC版のみ海外と同じ表現で配信
  • DLCによる表現追加 – 後日配信で規制表現を補完
  • アップデートによる修正 – 発売後に表現を調整

社会的議論の必要性

現在の議論はゲーマー視点からの批判が中心ですが、青少年保護の観点からCEROを支持する声も存在します。今後は以下の点での建設的な議論が必要でしょう

  • 成人向け表現の適切な年齢制限のあり方
  • デジタル配信時代に適した新しい規制手法
  • クリエイターの表現の自由と社会的責任のバランス

まとめ

「18歳未満が遊んでも罰せられないのに、なぜお店はZ指定ソフトを売ってくれないの?」 → Z指定は都道府県の青少年保護育成条例で「有害図書類」扱いされており、18歳未満への販売が条例で制限されているため。違反すると店側が処罰される可能性があります。

「海外版はそのままなのに、日本版だけ血や裸が修正されるのはなぜ?」 → CEROには年齢区分に関係なく禁止される「禁止表現」があり、これに該当すると審査不可=発売不能になるため。メーカーは日本市場で販売するために表現を修正せざるを得ません。

CEROは「表現の敵」でも「味方」でもなく、業界と社会の間でバランスを取ろうとする仕組みです。完璧ではありませんが、法的規制を避けながら一定の表現の自由を確保している側面もあります。

今後、デジタル配信の普及や国際化の進展により、この審査の仕組みがどう変化していくかはゲーマーとしては気になります。現状を理解した上で建設的な議論を続けることが、より良いゲーム環境の実現につながると考えます。

私個人としては、Z区分やソフ倫がない場合はどれだけ狂ったゲームが出来上がるかどんな作品になるかは非常に興味が湧いてきます。
ゲームは現実とは違った非日常を体験できるものなので規制が入ってない偏った思想で作られた作品やグラフィックが進化した激しい表現も見てみたいです。まぁ、にでぃがの超てんちゃんの表現もスイッチ版だと規制されてたし表現の自由度は現代社会だと色々大変そうだなといったところで、記事を終わりにしたいと思います。

比較動画一覧

英語ですが、GTAVのトレバーが海外版だとより狂気的な部分が際立ってます。

割と有名ですがバイオハザードの残虐表現の規制に関してはこちらの動画がわかりやすいです。

海外版との演出比較はこちらの動画がわかりやすいです。

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